子育てしながらの制作は、ものすごいエネルギーを要しますね。お二人のお子さんは制作に臨むお母さんの仕事をどのようにみていましたか? 小4の娘と、5歳の息子が寝てからアトリエで夜なべして制作の日々。寝る前に息子は「おかあさん、がんばって!」と必ず言いに来てくれてかわいかったですね。虫に興味もあったので、帰り道で蝉の抜け殻を拾って持ち帰ってきてくれたり(笑)。子どもを送り出してから、日中の時間を制作にあてて。幸い、夫もアーティストとして在宅で仕事をしているので助かりました。夫は現代アートの歴史にも詳しく、私の作品にもアドバイスをしてくれます。 ご夫婦でアーティストなのですね。でも2か月で仕上げられる紙技は神業!(笑) 福井さんが子育てを経て変化があったことは何でしょう? 子どもがうまれる前は、子どもの造形スタジオで非常勤として週4日ほど働く一方で、アーティスト活動もしていました。その職場はアーティスト活動を奨励している環境でした。勤めとアーティスト活動と二足の草鞋を履いてやってきて、妊娠して産休育休も経ていざ職場復帰という時に、非常勤だと保育園は入れない…という現実が。もし保育園に入れたとしても1日のお給料が保育料に消え、むしろ作家活動だけのほうが保育園は入りやすい。会社、アーティスト、子育てと三つの草鞋は難しいと判断して、8年ほど勤めた会社を辞めることに。安定した収入源がなくなり、がんばって子どもを預けて働くからには見合った仕事をしなくては意味がない、と切実に感じるようになりました。前は、趣味的な気持ちのほうが強かった。大変な中でいかに集中して完成度高いものを仕上げるか。時間のありがたさ、一つの作品に対する責任感。子どもが大きくなった時に恥じないようなものを作っていかないと、と思うようになりました。 ちなみにお子さんも絵を描いたり、何かを作ったりするのがやはりお好きですか? 絵は好きなほうだと思いますが、発想がおもしろいですね。私が小学校の頃を振り返ってみると、絵がうまかった人が必ずしも絵描きやデザイナーになっていない。私はずっとバスケをやっていて、好きだから絵は続けていましたが挫折がなかったし、あまり根詰めることもなく、おいしいとこどりで楽しい思い出だけ。いろんなことを知った上で美術という選択はあっても、いろんな人に共感してもらうためには、自分の経験値を高めていかないと独りよがりの世界になりがち。一般の生活はやったほうがいい。小さな頃からそうすることで引き出しが多くなります。美術だけやっていても、逆に頭でっかちになって自分の行動に歯止めをかけてしまう。私は美術にかかわる仕事はしたいと思っていたので学芸員の資格は取っていました。でも自分が作家になるとは思っていなかったんです。 発想。アイデア。着眼点。人と同じではないからこそ今があるのだと思います。福井さんと同世代の方へ「子育て」には何が大切かをお伝えいただけますか? 子どもは子どもで、今も昔も変わらないと思います。私の母も、祖母も、子育てしながら働いてきました。近所に学校の先生をしている母の年子の姉、私にとっては叔母も住んでいて、仕事帰りにうちに寄って、その日あった出来事など女だけで話して解消していたのでしょう。それがまた楽しそうでした。これがダメというのがなく皆で助け合いながら育てていたので、それが連鎖して、今私も母に助けてもらっています。助かるし、ありがたいことです。美容室では冠婚葬祭用の着付けもしていたので、着物と髪型について母と祖母が話し合っていることや、着付けを終えて身支度されたお客様の姿を見るのがとっても好きでした。 好きな時間、好きなことを、いつもちゃんと直感で見つけていた感受性が福井さんの原動力かもしれませんね。これからの活動は何か計画がありますか? 「お能」に携わって10年一区切りで2018年に作品集を出しました。2019年は、これまでやってきたことのアウトプットの年です。3年間日本中を巡回していた切り絵作家の11人展が大分を最後に終了し、出身地である静岡でお能作品10年間10点の作品と静岡仕事の個展を開催しました。そして、2年間制作してきた絵本が発売され、原画展が開催されています。来年の展示も決まったものがありますが、そこではまた違った面をお見せできればと思います。「切り絵」というキーワードを用いて型にはまらない様々な表現にチャレンジしていきたいと思っています。 ---ありがとうございました! 2019年7月取材・文/マザール あべみちこ 福井 利佐 活動紹介
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