川上 和人(かわかみ かずと) 1973年生まれ。東京大学農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。農学博士。森林総合研究所・チーム長。『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』『鳥肉以上、鳥学未満。』『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』など著書多数。図鑑監修も多い。 先生の書いた鳥にまつわる本がどれもおもしろくて。今日はお話しを伺えること楽しみに参りました。まずはじめに鳥類学者の研究についてお尋ねします。小笠原諸島での調査の他は、こちらのつくば市にある森林総合研究所で普段はお仕事をされているんですね? 1年のうち4分の1は調査のため小笠原諸島へ行きます。調査は研究の始まりの部分です。サンプルやデータを持ち帰って、そこから分析、論文を書いて発表というのが一連の流れです。調査だけ取り上げて注目されてしまいがちですが、それは研究のごく一部。調査前には研究のデザインがあり、計画をたてて調査に臨みます。調査期間だけが重要なのではなく、大切なのはそれで一体何を明らかにするかです。 研究の一部である小笠原の現地調査で、まだ明らかにされていない鳥の生態や進化を追っているのですね。 そして、研究者は論文を書くだけではなく、その成果を普及するのも重要なミッションです。研究結果に基づいて保全事業を進めたりして、さまざまな形で活用することは不可欠です。また、僕らは税金で研究をしていますので、研究成果を一般の方々にもわかってもらい楽しんでもらうことも大切です。応用だけはなく、自然の中に埋もれた真実を明らかにしていく基礎科学としての側面過程が重要です。 鳥を中心に、生態系の中で生物全般が関わってくるものだな~と本を読んで思いました。 鳥には食べる物、棲む所が必要で、様々な形で他の生物とのネットワークができます。鳥の研究では、もちろん鳥だけを対象にする場合もあります。僕は生態系の一部、パーツとしての鳥に注目していて、生態系の中でどういう機能を持っているかに興味があります。他の生物との関係がわかると、その中での鳥の地位がわかります。歴史もそうですが大きな流れがわかるとおもしろいです。単に、ここにこの鳥がいたという事実だけでなく、全体像を理解するための体系や位置づけがあると、鳥というものがさらにおもしろくなります。 全部つながりの中の命ですね。先生が楽しんでいらっしゃるのは文章から滲み出ています。単なる知識や紹介でなく、鳥を観察するエッセー。こうした文体でいつ頃から執筆を? 僕自身は楽しく研究をしながら、鳥のおもしろさを多くの人と共有したいと強く思っています。文章を書くことは好きで、学生の頃から機会があると簡単な記事を書いていました。しっかりと書き始めたのは就職をしてからですが、文章を書くことには抵抗がありませんでした。 そのおもしろさは本を読んで頂きましょう。ところで今朝うちの森で鳴いていた鳥の声を録ってきたんですが。声を聞けば先生はどの種類の鳥かわかりますか? 姿を見ればわかりますが、声だけだと…がんばらないとわかりません。その点はアマチュアのバードウオッチャーのほうが詳しいです。彼らは熱意があるので識別能力が高いです。僕は研究者なので研究のために必要なことはします。たとえば小笠原諸島の島に何が生息しているかわからない場合、調べるのにものすごく努力をします。それ以外の部分で、調査対象でない鳥が鳴いても、ああ綺麗な声だな…と思って満足してしまいます。普段はバードウオッチングはしません。私にとっての鳥は、あくまでも研究対象なのです。 |
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