ではここから少し、先生の子ども時代のお話をお聞かせ頂きます。やはり生き物全般に興味を持たれていた? いいえ、まったく。子どもの頃から鳥が好きで、自然が好きで、そういう経験がいっぱいあって鳥類学者に…と期待されがちですが普通に漫画を読み、テレビでアニメやドリフ、ひょうきん族などを観て、それが8割くらい占める生活をしていました。もともと鳥が好きで自然が好きで学者になった人もいますが、僕は生物に特に興味がありませんでした。一般的には、最終的にどんな職業に就くにしても、その仕事をずっと夢見て目標にしてやってきた人ばかりではないと思います。もちろん子どもの頃からの夢を実現してきたすごい方もいます。でも、そうではない人も多いと思います。 そうですね。でも後に鳥は生態系の中で、一番楽しい生き物とお感じになられた。 いわゆる好きは「愛でる」ですが、そういう意味では愛でていません。生態系の中で鳥は特殊で、野外でどこででも見られるすごく身近な生物です。都市、山、海など、世界中で見ることができる非常に普遍的な存在です。大型の脊椎動物でこれほど普通に見られる生き物は他にいません。もう一つ、空を飛んで長距離移動できるのは、他の生物は持っていない特徴です。哺乳類は大型でも1日千キロ移動は難しいですが、鳥なら可能です。こんな特殊性を持っているため、生態系の中で他の生物では成し得ない機能を持ちます。モノを運び、新しい所に進出し、意思を持って別の所に行け、海をも超えられる。これは他の生物にない能力で、生態系の中での特別な機能です。僕はそこにすごく興味があります。ただ最初からそう思って鳥の研究をしようとするほど成熟していたわけではなく、最初は偶然に鳥の研究を始めただけでした。 偶然に導かれて、なのですね。小・中・高では、どんなことがお得意でしたか。 公立小学校に通い、習い事はピアノを6年、少しですが水泳や英語教室にも通いました。中学の勉強では、理解力は速いけれど字は汚かった(笑)。高校では生物ではなく物理化学を選択しており、生物学者になる気持ちはそこでもまだありませんでした。 実は僕は今も虫が苦手です。動物も哺乳類はそんなに得意ではありません。生物学者は動物好きと思われますが、必ずしもそうではないです。虫もなるべく触りたくないし、哺乳類を触るにもあまり積極的じゃありません。 高校時代は物理化学の専門を選択されたのですね。鳥を好きになったエピソードは? 大学に入って生物学研究会に所属しました。山へ行って鳥や動物を見たり、生物を観察するサークルです。僕と高校時代の友達がサークルのオリエンテーションに行って、偶然にそのブースに入りました。サークルのブースは100個以上あったので、どれに入るかなんて偶然でしかないです。その時、その建物に行かなかったら、僕は鳥類学者になっていませんでした。そのサークルでバードウオッチングをやったらおもしろかった。生まれて初めてNikonの双眼鏡を覗いたら感動するほどよく見えました。鳥好きな先輩がサークルにたくさんいて、鳥を見るだけでなく一緒に皆でお酒を飲んだり、山で遊んだり、そういう楽しみの一つとしてバードウオッチングもしていました。 大学時代の楽しい経験が原点だったんですね。 ええ、そこで初めてカラスにはハシブトガラスとハシボソガラスがいることや、鳩にも複数の種類がいると知りました。サークルがきっかけで鳥を見始めたわけです。大学3年時に学科に分かれ、農学部林学科へ入りました。大学4年生になったらどうしても卒論を書かなくてはいけないので、最初は植物の研究をしようと思っていました。しかし、偶然その年、鳥類学者の樋口広芳先生が東大に赴任され、サークルで興味を持った鳥をテーマに卒業研究を見てもらえることになりました。その後、小笠原諸島で調査をされていた樋口先生が僕に「調査をしてこないか?」と。当時、小笠原諸島が何処にあるのかも知らず、島の名前も聞いたことがなかったけれど、言われた通りに小笠原諸島に行って鳥の研究を始めました。すべて受動的でした。 |
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