■全国各地に講演に行かれ、今の子どもたちにも接する機会が多いと思います。子どもたちに感じることはありますか? 会社では全国3箇所で3泊4日のキッズキャンプというスポーツを通して子どもたちを育成するイベントを開催しています。「本物の人から本物を学ぶ」という理念です。全国の学校で講演もたくさん行っています。子どもは基本的に変わっていないと思うんです。問題があるのは大人。世の中や家庭、環境がものすごく変わってしまった。家庭という社会が崩れていると感じます。学校は、家庭の次にあるものですよね。一部の保護者には、それが間違って認識されているように思います。
■有森さんのご家庭はいかがでした? 母が父の数十倍厳しかった。父は温厚な高校教師でした。本当に悪いことすると、母は手もあげたし、怖かったですよ。子ども時代は嫌いでした。でも、怒られる意味はわかりました。「できることは誰でもする。部活ボケするな!」と言われていましたね。何であっても、自分で決めることがほとんど。自分で責任をもてた。親から何の押し付けもなかったからです。
■親御さんの教育方針のようなものはありましたか? 今になって思えば一番ありがたかったのは、見守ってくれたところ。もちろん私自身、失敗もありましたけれど、何も口出し手出しをせずに見守ってくれる存在でした。タイムを出すとか勝つということを母は気にすることはなくて、常に私の体の心配をしていましたね。だからといって「やめなさい」とは絶対に言いませんでしたが。引退は一番安堵していると思います。
■当たり前のことかもしれませんが、そういう姿勢は胸にしみますね。有森さんから読者の親御さんにメッセージをいただけますか。 とにかく「待つ」こと。愛情をもってその子の表情を「見守る」こと。そして「信じる」こと。親のスピードで引っ張ってしまうから、子どもの気持ちの速度が見えてない。知的障害者のオリンピックに私は関わっていますが、彼らから学ぶことはとても多い。持っている力を精一杯発揮できれば、それで十分素晴らしいことです。でも、1位を取るわが子が見たいという親の欲望で、1位になれないと「なんで勝てないの!」と言ってしまう。親のご機嫌を伺うような子どもができてしまう。親の自信がない。子どもは親の鏡ですから。大人がそういう自分に気づかないと、子どもは変わりません。
----ありがとうございました。走っている時は涼しげで、ゴールも楽しげにされていた現役時代。同世代としていつも有森さんを応援してきたので、お会いできて光栄でした。一年のうち4分の3は日本で仕事をし、4分の1は本拠地で待つ旦那さんのもとへ帰るそうです。引退を誰よりも喜んでくれたのは、ひょっとして旦那さんかもしれませんね。ご夫婦で仲良く、これからの人生長距離戦を走ってくださいね。
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<了>
取材・文/マザール あべみちこ |
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