6人兄弟が原点として、子ども時代に得意だったことは何でしょう? ガキ大将でした(笑)。地域の子どもをまとめて秘密基地を作ったり、遊びの段取りを考えたりとか、今やっていることと一緒です。大きな道路の向こう側は団地のエリア、こっちは下町エリアで。下町エリアの子どもたちと、団地エリアの子どもたちを追い回すとか指揮していました。僕は昭和57年生まれですが、下町でしたから町内会で運動会したり、旅行したり、古き良き昭和の一番最後の世代で、群れて遊べた。ある日あっけなく秘密基地が取り壊される日に、たまたま法事で片付けに行けず、ガキ大将はあっさり引退しました。人生で初めて義理と人情に挟まれた瞬間でした。学校では美術と国語と社会が得意でした。理数系はからっきしダメ。得意なことに集中できてよかったですし、親も別に勉強しろとか言わなかったですし結構放任されていました。子ども6人いたからひとり一人に構っていられず、親は育てていくので精一杯。 まさにこの仕事が天職ですね。ご自身の暮らし方でのこだわりはありますか? 僕は面倒くさがりで未だにガラケーでiPhoneではない。ごちゃごちゃと細かい情報をいちいち入れたくない。スマホを持ってしまったら、街を歩く時間や、電車で移動する時の読書量も減るだろうし、人間観察の時間も奪われてしまう。堕落すると思うので、持たない方がいいと自分に課しています。スマホではないからスケジュールのPDFデータとか見られないのでしょっちゅう叱られますが、すぐ見ないとならないほうがおかしい。すぐ答えをほしがるのがわからない。考えさせてほしいです。 それはモノづくりには欠かせない軸でしょうね。子育て真っ最中、そしてこれから…という同世代の方へ、子どもの教育についてアドバイスを一言お願いします。 今、この仕事で役立っていることが2つあります。ひとつは、家の中に本棚があったこと。僕はおばあちゃんっ子で、祖母の家に本棚があってそこに世界名作劇場、宝島や漂流記とか子どもの頃に読んでおもしろかった。本を読むことで読解力もつく。仕事で海外に行くことがあるのですが、そこで思うのは、英語ができるから話すのではなくて、言いたいことがあるから伝える。そのためには基本的な国語力がないとダメなんです。僕は英語全然話せないけれど、海外で通訳の人に「益山さんの英会話力は中学生以下ですが、かわいい娘と話すときは、なぜ2時間も話せるんですか?」と聞かれたことがあります。それは口説いているから!動機があれば人は伝えたくなります(笑)。言いたいこと、まとめる力をつけるのは読書だと思います。 語学力にも読書が力になりますね。役立っていることのもう一つは何でしょうか? もう一つは、うちの家族は映画館だけでなく、旅行や展覧会などよく連れて行ってもらいました。そういう体験は何よりも大切です。子どもの頃、父親に大阪の西成という地区に社会見学ということで連れて行かれました。ここは東京でいう山谷のようなところ。女の人はひとりで行ってはいけない日本のカルカッタような場所ですが、そこへ子どもたちを連れて行って労働者のおじさんが昼からお酒飲んでワアワア喧嘩していたり、10円20円掛けてトランプ賭博していたり…という姿を見せられたり。こういう体験はすぐにはわからない。オトナになってから人生の厚みになっていく。それは演劇も一緒です。人生に疲れて追い込まれたときに、あの時みたお芝居がよかったからもうちょっと頑張ろう、とか、青い空をまた見たいから気分転換しよう…とか。教育の外側にある、それは情操教育というものかもしれませんが、豊かな世界を見るのは人間にとって必要だと思いますし、将来自分に子どもが生まれたら、そうしてあげたいなと思っています。 ---ありがとうございました! 2019年11月取材・文/マザール あべみちこ 益山 貴司 公演紹介
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