藤井さんは子どもの頃、習い事は何かされていましたか? 小学3年生から6年生の3年間習字に通いました。友達が通っていたお寺の習字教室へ「藤井は字が綺麗だから一緒に行かないか?」と誘われて。勝手に習字教室をやっているお寺に行って、親が慌てて後から手続きをしていました。姉のおさがりの真っ赤な習字道具入れを笑われることもありましたが、男の子用の黒色よりも赤色の方が好きでした。 お寺の習字教室は風情があっていいですね。中学受験はされたのでしょうか? 中学受験はしませんでしたが、小学5年生から高校1年生まで学習塾へ通いました。なぜか通う塾が次々に潰れてしまい4つくらい梯子しました。田舎の小学校では賢い方でしたが、進学塾では成績は最下位でした。難関中学校を目指す子は難しい四則計算もスラスラ解けるのに、僕は間違えてばかりでした。それでも、別の世界を見られたのは楽しかった。最初は塾で最下位の落ちこぼれでしたが、予習する癖を少しずつ重ねて、勉強すれば成績が上がるのもわかったのが収穫でした。「勉強しなくても100点取れた!」という天才にはなれなくても、「100点は取れなかったけれど、勉強できた!」と思う気持ちを大事にしようと思っています。 勉強するのが楽しいと感じられたことも、研究者としてのベースがありましたね。 転々と塾をさまよっていた時は友達もおらず、休み時間は宮沢賢治の小説を読んでいたら、裏で「ケンジくん」と呼ばれていました。その宮沢賢治も土の研究者だったのを後に知ったので、奇遇ですね。習い事という場所で、学校と違う世界が見えるのはすごく幸せでした。浪人時代に宗谷岬で流氷を待ち続けた塾の先生、授業をやめて世界の軍事情勢を語る先生など。学校とは違う世界があると知れました。子どもにだって親や学校の先生以外と触れ合う気分転換は大事です。親が子どもに何か教えようとすると、どうしても感情的になってしまう。ついつい隣の子と比べて、「どうしてうちの子はできないのか」といらだったり。子どもには、親以外の大人との触れ合いは必要だと思います。 コロナ禍はもう少し続きそうですが、どんな姿勢で今年後半の活動をされる予定ですか? コロナ禍によって、手つかずにほったらかしていた仕事の山積みが露見しました。動き続けていたら、さらにそれを山積みにすることになったので片付けようと思うことができました。できないことに目を向けると不幸になってしまう。「コロナのおかげでこれできた!」と言えることを増やしたい。コロナのおかげで家庭菜園が上達しました。もちろんインドネシアでもっと研究が進展するはずだった…けれど、できるだけそれは考えないようにしています。インドネシアに不毛な土があるように、家のプランターにも不毛な土がある。トマトやオクラがうまく実るようにするには?と好奇心を持ち続けていれば、自分の世界が広がっていくことに気づかせてもらいました。 研究活動としては、宝探しをしています。40年前に先輩が岩石粉末を土に埋めたそうなんです。岩石が土になるのを調べる実験です。埋めた本人はもう亡くなっていますが、その地図が残っていて、地図を頼りにそのタイムカプセルを探しています。岩からどうやって土に変わるのか?土はなぜ簡単にできないのか?を研究したい。100年に1センチしか土はできないというのが通説ですが、本当にそうかな?と。岩がどうしたら早く土になるのかを調べてみようと。もうひとつは、土の微生物によるバナナの病気の研究です。インドネシアへ行けない代わりに、温室でバナナを栽培して。病気に強いバナナと土を育てる方法を調べる予定です。土だけでなくバナナのプロにもなりたいと思っています。 ---ありがとうございました! 2021年5月リモートによる取材・文/マザール あべみちこ 藤井 一至 書籍紹介
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