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指揮者 冨田実里さんバレエは幼少期から好きなことの一つ。
作品へのリスペクトと常に学ぶ姿勢。バレエは幼少期から好きなことの一つ。

指揮を振るまでにどのような道のりを歩まれましたか?

桐朋学園大学で指揮を習った先生が、バレエの指揮をよくなさっている堤俊作先生で、先生が練習に出られない時に代わりを務める「下振り」の役割をして現場の経験を重ねました。その後、2013年にバレエ『ドン・キホーテ』の全幕を指揮する経験もしました。ちょうどその頃、新国立劇場バレエ団で副指揮者というポジションができ、まったく同じ演目の『ドン・キホーテ』の副指揮者をやりませんか?と声を掛けてもらい、そこから副指揮者として働くキャリアが始まりました。

副指揮者とは指揮者のサポートをするという?

そうです。あとはカバーコンダクターといって指揮者が万一病気で倒れたりした場合などに、代わりを務める役割です。そのポジションになると、世界からやってきた指揮者の流儀を直に見られる。音楽と踊りをどう結び付けているのか、色々な指揮者の考えに触れられたことは大きな勉強になりました。

2014年にバレエ団で一緒に仕事をしたイギリスの指揮者が招いてくれて、翌年2015年にイギリスでバレエ公演の指揮を振りました。ヨーロッパは公演数が多く、1か月に7~8回公演ほど指揮しましたね。

2017年に新国立劇場バレエ団の指揮者という立場になりました。同時に副指揮者も務め、ピアノも弾くという複数の役をこなすのが前提ではありましたが(笑)。そうして2020年パンデミックとなってほとんどの演目で海外から指揮者が来日できなくなり、代わって私が指揮を振ることになりました。今やらずにいつやる?という思いで取り組みました。

いろんな指揮者のスタイルがあると思いますが、自分流はどんなスタイルですか?

自分を主語にしないことを心がけています。作品への尊敬を持つということです。「名作といわれる所以は何だろう?」「名作のもつ秘訣とは?」など指揮をしていると色々考えさせられることがあります。例えば「白鳥の湖」は何度も指揮している作品の一つですが、指揮するたびにこの曲はすごいなあという発見があります。長い年月を越えて残されてきた作品に、たまたま今私がバトンを持っている。この先につなげられるように変な泥を塗ってはいけない(笑)。やればやるほど勉強したいことはどんどん出てくるので、常に学び続けたいという姿勢でいます。

「ピアノとか芸術とか、私にはよくわからないけど、この演奏はすごかった!」と誰かに言ってもらえたら光栄です。お客様の心を動かすことは奏者が情感を込めることでなくて、微妙で緻密な音の操作。ただ懸命になっても心を動かせるとは限らない。上手な人は音ひとつだけで他人の心を動かすことができますし、音楽を学んでいない方にも説得する力があると思います。

2月開催の「エデュケーショナル・プログラムvol.1 ようこそ『シンデレラ』のお城へ!」はどのような内容ですか。

4歳のお子様からご観賞頂ける、舞台の裏側を見せるプログラムです。舞台はどうやって出来上がるか、舞台転換がどうされるのか、古い作品はなぜ人に愛されるのか、そのポイントは何か…など。いろんな人の手があり、協力があり、成り立つ空間の秘密をちょっとだけ見せますというものです。

お話は誰もが知っていますし、バレエの「シンデレラ」はこうできているのか!とバレエや舞台に関心のある方はもちろん、初めて舞台を観るお客様にも楽しんで頂けます。たとえば12時の鐘が鳴って魔法が溶けてしまう場面。あれはたくさんのスタッフによる綿密なマジックがある。小道具一つにしても愛が詰まっていて、プロフェッショナルが集まりおもしろいものが出来上がるんです。また、意地悪なお姉さん役は男性ダンサーが踊りますが、そのアイデアによってどう心を動かされるのか?そんなポイントを気づいてもらえたらと思います。たくさんのエンタメがある現代で角度の違うアプローチでバレエを紹介することは舞台芸術文化を存続するための挑戦ともいえるかもしれません。

いろいろな劇場でレクチャー的なプログラムを行っていますが、生のオーケストラによる演奏が付いての上演は、新国立劇場ならではです。たくさんの車輪が噛み合って大きなものが出来上がるのだと知ってもらえれば。中学生の時に吹奏楽を知った私が「皆でひとつのものをつくるのは楽しい!」と思った原点を、ぜひこのプログラムで体験してほしいです。

吹奏楽部でチューバを演奏する16歳当時。

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