それにしても岩井さんの作品はいろんなテーマで書かれています。朝早く起きて必ず書く習慣をお持ちと伺いました。毎日どのくらい書かれているんでしょうか? 執筆ペースは平日と休日と違いますが、月算150枚(原稿用紙換算)くらい。本当はもっと書きたいのですが平日3~4枚書いて、土日に10枚くらいですね。私の担当している仕事はリモートワークがしやすい内容で、出勤は週一くらいです。 読者としては浮気性で、いろんなのを読みたいので、そういうものを書いています。いつも何十個か書きたいテーマのストックがある。今書けるもの、書きたいものを選んで編集者と話しながら決めて書いています。 言葉を紡ぐ作家として、大切にされている想いや視点はどんなことでしょう? ふだんのコミュニケーションでは100%意思疎通なされるのが一番優先されるべきこと。ただ小説の世界はそうではない。わかやすさはもちろん大事ですが、同時に主人公が置かれている状況とか成し得ることに忠実であるべきです。読者だけに書こうとすると言葉も安易なものになり、わかりやすい方向に流れていく。自分の作る世界に対して、誠実に書くことを意識しています。常に相反するものの中で挟まれていますがエンタメ作家としてわかりやすさを提示し、どうしてもわかりにくさもあり、どの言葉にするか?を探している。伝わりやすさは大事ですが、それだけが目的ではないんです。プラスαで「他の人に書けないことを書く」を心がけ、両立できるよう気を付けています。100人全員がわかるものを書くのが小説家の仕事ではないと私自身は思うので。わかりやすさだけでなく、自分が求める世界を妥協しないことも大切だと思います。 なるほど!とても深い視座ですね。岩井さんは子育て中でもありますが、コロナ禍のさまざまなシーンでの分断の中で、未来の子どもたちのために今何をすべきとお考えですか? うちには上が3歳、下が0歳の子がいます。20年後の世界は想像できません。分断自体は前からあったもの。それが最近クローズアップされるようになったのは、インターネットが普及して比較をしやすくなったこともある。昔はすごいお金持ちの人がいてもそれは自分とは別世界の話と冷静さを保っていられたわけですが、ネットの普及でもっと生々しい部分が垣間見えるようになって良くも悪くも「あの人たちも人間なんだ」が見えてきた。 せめて自分の至近にある生活を大事にしていくしかない。もちろん分断は社会問題として解決すべきですが、自分の遠いところを見るのではなく、近い所の生活を着実にやっていく。それが一人ひとりにとって大事なことで、生活の満足度があがれば違和感は薄れるのではないでしょうか。私個人としては至近の生活としっかり向き合って、あまり情報に踊らされ過ぎないようにしたい。至近の人との関係。至近で起きていること。それをしっかり見て、少しでも生活をよりよくできるようにしていく。その繰り返しでしょうね。 きょうはラッキーなことに直接お目に掛かれました。毎日の生活を大切に過ごす価値観も人それぞれなのだとわかったコロナ禍でした。この先、世の中が変わったらいいなと思うことはどんなことですか? 元通りにはならないというのを感じていて、元通りがベストだとも思わない。2019年の状況に完全に戻すのが良いか?と言えば、そうではない。人類単位ですごく大きな経験をして、そこから学んでより良い方向へ向かわねばならない。「ニューノーマル」って最近言いますけれど、以前は「接すること、向き合うこと、近づくこと」がとても尊ばれていましたし、それはすごく大事なことですが、一方でそこに苦しみを覚えている人もいる。それが今回いろんな場面でわかったと思うんです。 リモートワークにより会社では、嫌な上司と顔を合わせなくて済むから鬱病が減った…と産業医の先生が話されていました。通勤時間が減って子どもと向き合う時間も増えました。今までやるべきだ、やったほうがいい、とされてきたことが、全部根底から「そうでもないぞ」と問い直された期間でした。一辺倒ではないというのがわかったのも事実なので、それをすっかり忘れて2019年の状況に戻しましょうというのは、あまりにも進歩がない。私が一番いいと思うのは、そこを踏まえた上での「触れ合うこと、近づくこと」が必ずしも善ではなく、人と場合によって違うものであることを世の中がわかるといいなと思います。 遠方でもつなげて話ができるリモートの良さを体感できました。コロナ禍を経て進歩できたことを踏まえ選択肢が増えたことをむしろ喜ぶべきでしょうね。 打ち合わせや取材もやりやすくなったと思います。日程や時間の融通もきかせられるようになったのは大きい。今までは断るしかなかったことが、リモートの出現によって断らずにできるようになったので。選択肢が増えたのは、人類の進歩です。通勤する人、リモートワークの人、それぞれの希望や立場でやっていくのがこれからの社会だと思います。 この先はどんな作品を書く、というのはもう決まっていますか? 今年は連載が4本始まります。ポエトリーみたいな現代を舞台にした短編集も書きますし、ちょっとSFっぽいのも。時代を遡るような戦前もの小説、などプロットを作って進めています。あと今年中にもう2冊本が出ます。来年は3冊決まっています。これまで1年に1冊、2冊出していましたが忸怩たる思いでしたので、これからはペースを落とさずに書いていきたい。時代を引き寄せたいです。 ---ありがとうございました! 2022年5月取材・文/マザール あべみちこ 岩井 圭也 書籍紹介 |
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