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■プリマとして踊られていた頃から現在の指導されるお立場として、先生はもう何十年もバレエ界でご活躍されていらっしゃいますが、4歳で初舞台を踏まれたとか?
母の橘秋子が現役でバレエを踊っていた時に私が生まれました。母は踊りたかったものですから離れて暮らしておりまして、私は育ての親のもとに預けられて育ちました。週1回迎えにきて実家に連れて行かれましてね。母がバレエ教室をしていたので私は自然にバレエに慣れ親しんできました。疎開後は母と一緒に暮らしていました。小さな頃から自分はバレエがうまいと思い込んでいました。周りのお姉さんたちは、どうしてできなくて怒られているんだろう、なんて思っていました。もちろん子どもで、何もわかっていませんでしたから、母からしてみれば何の価値もない踊りだったでしょう。「どきなさい!」といわれても、「私はこんなにうまいのに、どうしてかしら」と思っていましたね。
■小さな頃から自信がおありだったのはすごいですね。やはり天性の才能をお持ちだったのでしょうか。
いいえ、そうではなく大人と子どもの次元ですから、実際は歴然と実力に差があるのです。何の世界でもそうですが、上手い人から下手な人を見ると、どこがダメかわかりますよね。ところが下から上をみても、どこがダメなのかわからないものなんです。
それを自覚して、気づくのが大事なことなのです。
■バラバラの才能たちを指導されるのはとても大変だと思いますが、 どんなことで一番苦労されますか。
バレエを踊るためにはまず、一人ひとりが自分の眼で自分のことが見えるようになることが大事です。己を知って、そこから頑張れる人はその先も伸びます。そこであきらめる人は、バレエには縁がなかった人なのでしょう。子どもの頃は別ですが、少し大きくなると「あの人は細くてきれいだけど私は太くてだめだ」「私は今はこんなだけど、もうちょっと頑張ってきれいになろう」と、個人個人でモチベーションが違ってきます。 容姿も大きな要素のひとつなのです。それに気が付く時が、時期もさまざまなのです。稽古場で見るのと、舞台の上で見るのでは、見え方も違います。趣味としてバレエをするのなら教養の一つとして身につけるのもいいと思います。でも専門家になるには続けられるかどうか、それだけです。才能があっても辞めてしまえば、そこで終わります。子どもたちを指導していくなかで、才能があったほうがもちろんいいのですが、続けられることも才能のひとつなのです。
■なるほど、どんな職業でも通じていえることかもしれませんね。 なかでもバレエは基礎が大切と思いますが。日々のレッスンは、舞台に上がる限り、どんな大プリマもやり続けなくてはいけないことです。肉体が狂ってしまいますから。発声しないと歌が歌えないように、基礎レッスンをしていない体では作品を踊ってもきれいな線がでないのです。本当のプロは、すべての動きがクリーンなのです。そういう点を見る力があるかどうかですね。自分を見る力、人のいいところを盗む力。どちらも大切です。
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