武田 邦彦 (たけだ くにひこ)さん 1943年東京都生まれ。工学博士。東京大学教養学部基礎科学科卒業。専攻は資源材料工学。卒業後、旭化成に入社。同社ウラン濃縮研究所長在任中、世界で初めての化学法のウラン濃縮に成功し、日本原子力学会から最高の賞(平和利用特賞)を受賞。放射線関係では第一種放射線取扱主任者など広い分野の原子力実績を持つ。名古屋大学大学院教授を経て、現在、中部大学総合工学研究所教授。内閣府原子力委員会および安全委員会専門委員を歴任。著書に「環境問題はなぜウソがまかり通るのか1,2,3」(洋泉社)、「偽善エネルギー」(幻冬舎)、「原発事故 残留汚染の危険性 われわれの健康は守られるのか」(朝日新聞出版)、「放射能と生きる」(幻冬舎新書)など多数。 横浜市に住んでいる私にとって、9月に配付された広報「よこはま」は、あまりにも安全デマを堂々と吹聴している内容で驚愕してしまいました。行政が発信する情報を信じる人がほとんど。まさか間違った情報を伝えていると考える人は少ないです。そこで武田先生にこの広報誌のどこが問題なのかを具体的にご指摘いただけますか? 1年1mSv(ミリシーベルト)という数値は日本の法律で決まっています。まずその法律を守ってくださいと伝えるべきです。「守っています」と答えるのなら食品の暫定基準が1年1mSv(ミリシーベルト)以下であるということを説明してもらいましょう。これは計算のやり方によりますが5mSv~20mSVの数値になっています。ですからこの数値自体が、国の法律に違反をしています。「1年1mSvは国の法律ではない」とするならば、4月に保安院が東京電力もしくは下請けの職員に対して1年1mSvを超えたことで、国が東電を処分しました。1年5mSvを超えた人が白血病になった場合、裁判では労災認定になります。1mSvを超えると法律違反になり、5mSvを超えると労災になる…というのが事実です。成人男性の場合ですので、児童であればその数値を切っているものを提供することが必要です。 その例はとてもわかりやすいです。横浜市の給食が今問題になっているのは、「国の安全基準に従っているから安全だ」と主張している点です。ちっとも安全ではないため、基準値を超えたセシウム牛肉を複数回給食献立として使用されて9万人の児童が食べました。保護者は少しでもリスクの可能性がある食材は使用しないでほしいと4月の段階から度々要請したにも関わらず、起こるべくして起こってしまいました。 国よりも横浜市が給食供給責任者として、国の法律を守らないと国から処分を受けます。東電だけでなく、横浜市も処分をされることになります。現状は、横浜市が「法律に違反してもいいですよ」と市民に言っているようなものです。それは絶対にいけません。それでも横浜市がどうしても水や米の供給で法律違反をせざるを得ないということならば、給食を自由選択制にするべきでしょう。我々は健康で善良な市民ですから法律違反はできません。ましてや子どもに法律違反をさせることはできません。こういう伝え方をすることが大切だと思います。 実際は学校では、水筒も弁当も持参することを認めずにきました。セシウム牛肉を使用した給食を複数回配膳したにもかかわらず行政側から何ら謝罪もなく、9月になってようやく「学校単位で水筒、弁当希望の方は相談してください」という態度軟化に変わりました。そこまで学校給食にこだわる理由がわからない。今後、私たちはどう対策すればよろしいでしょうか? 給食を自由にすべきでしょう。弁当持参も許可し、給食を食べてもいい。どちらか選んでくださいと。被曝をしてもいいと考えるなら給食を選択する家庭もあるでしょう。でも、それは困るという家庭なら弁当をもたせる。それをしっかり打ち出すことです。 武田先生は先日某テレビ番組で子どもからの質問に対して「東北産の野菜は食べない方がいい」としっかりお答えされました。批判する方もおられることでしょうが、私たちは今、北海道産や西の生産物を選り好んで買い物しているのが現実です。ですから先生がおっしゃっておられることは事実だと受けとめています。風評被害とはマスコミや事実を言われると困る政府関係者がねつ造している「安心説」ではないかと思いますが、先生はどのように思われますか? 政府は何かしら考えがあるとしても、少なくとも専門家は法律を捻じ曲げて違うことを言ってはならないはずです。先日、食品の暫定基準値を変える委員会の議事録を読んでいたところ、そういうことをすると水も飲めなくなる、野菜も食べられなくなると言っている人がいましたが、そんなことは起こらないと思います。落ちるとしたら、野菜の一部と牛肉、牛乳の一部、魚くらいです。それらの輸入を積極的にすべきでしょう。東北の農家には補償が必要ですが、子どもたちに被曝を進めて農家を助けるのは変な論理ですよ。 |
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