伊藤さんは医療ジャーナリストとしてお仕事されていらっしゃる一方で写真家としても活動されておられます。そういう方はたぶん伊藤さんだけではないかと思うので、どうしてそうしたお仕事を選択されたのか、ぜひお聞かせください。 僕は出版社などを経てフリーのカメラマンとして仕事をしていました。ある日突然、医療問題を追求したいと思うような出来事があった。それは、94年の父の医療事故でした。家族としてどうしても受け入れられない父親の死がきっかけで医療問題に深い関心を持つようになったのです。一方で写真家として撮影で世界各国へ300回くらい行っていますが、国が違えば文化が違うわけで、命の危険に晒される恐ろしい経験をしてきました。だからこそ自分の命は自分で守る…という鉄則をもっていましたが、そういうスタンスが医療現場の理不尽な体制に対して、僕の中の何かを覚醒させたのかもしれませんね。 取り上げられているテーマが常にタイムリーですし、「えー!そうだったの?」という知られざる事実をしっかり掴んで伝えてくださるので、伊藤さんの活動には注目しています。 現在、僕はうつ病などに使う向精神薬の使い方に大きな問題があると考えています。例えば3歳のお子さんに発達障害という診断をして向精神薬をバンバン投与するなんてナンセンスなのですが、誰もそういう事実をしっかり注視してこなかった。そういう問題の中で注目していることに「自殺者が10年程前から日本で急激に増えたのは、ある薬が発売になったからではないか?」と推測しています。自殺対策では誰も着目してこなかったけれど、その問題を検証しない限り自殺は減らないのではないかと。どうしてそういうことになるかを掘り下げて考えていくことが非常に大切だと思います。ある事象を徹底的に掘り下げて行く。そうすると何かしら、問題の根底であろう事実にぶつかる。薬でも、行政でも、どんな相手であろうとおかしいと思ったことは徹底的に調べるのです。だからこそジャーナリストは常に現場の真実を追わないとならない。 今、手元に伊藤さんが執筆された記事がいくつかございますが、たとえば自殺率が急激に増え始めたのは98年にある薬が解禁になってから…といった具合にデータに基づいた分析をされていらっしゃいます。こんな恐ろしいことが背景にあるのですか? 「うつで病院に行くと殺される!?」という記事のタイトル通り、日本の自殺者は常に3万人を超え、先進国のなかで最悪の道を突っ走っています。不景気やストレス社会などが理由に挙げられてきましたが、見落とされている点があります。それは98年頃から抗うつ薬の売り上げが翌年以降増え続けているのです。自殺者数と抗うつ剤の売り上げが、ほぼ同じ時期から突然に増え始めそれ以降はずっと続いている。うつ状態で安易に病院へ通えば通うほど、死へ近づいていくのではないかと疑念を抱かせる状況があります。 日本人が何事も信じやすいのは医者の診断に限ったことではありませんね。ところで放射能汚染問題は辿っていくと反原発の動きにシフトしていくように思います。伊藤さんは3.11以降の日本の動きをどのように捉えていらっしゃいますか? 脱原発の立場はもちろんですが、僕はお祭り騒ぎのようなデモをやっても世の中が変わるとは思っていません。大御所の作家がスピーチしている内容も後日ネットで拝見しましたが、反原発以前に今我々の目の前で起こっていることに何ら言及しないのはなぜでしょうね?ノーベル賞までもらった方がどうして今そこにある危機について第一線で言葉を発しないのか?仮にパフォーマンスであっても、今福島や日本中で起きている現実を直視して命を守る大きな声を発してほしい。
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