新聞にしてもテレビにしても、情報源だと思っていたメディアは、本当に知りたいことは報道しないものだと段々わかってきました。「もう新聞購読するの、やめちゃおうかな」という人も増えていますが、伊藤さんはどんなふうにマスメディアを捉えていらっしゃいますか? 僕は新聞が真実を報じているかどうかを知るために複数購読しています(笑)。書かれている記事がどれだけ客観性があるか、常に懐疑的に全体を俯瞰するように読んでいます。斜に構えていえば、そもそも本当のことは書かれていないのではという前提です。僕は父の死によって物事の前提が180度ひっくり返った経験をしたので、国やマスメディアを盲目的に信用していないし、個人も信頼はお互いに作りだすものだと思っています。だから、テレビや新聞に真実が語られないというのは今さらな話で、ずっと昔から全ての真実なんて誰も語ってはいなかったわけです。それでも新聞によってわかる事実などの良い面もあるし、中には信頼できる新聞記者もいる。物事は一面だけではないという見方をしないとなりません。 伊藤さんは家庭でお父さんとしても、お子さんへそういう多面的な物事の捉え方を教えるのが上手そうですね。教育方針のポリシーはありますか? 今10歳の長男はスキーがもの凄く上手い。今や僕より上手い(笑)。それは、5歳の最初のスキーでおもちゃのような板を使わなかったから。高価なちゃんとした靴と板を買い与えた。そういう投資は親子にとってプレッシャーになる。さらに、我が家はボーゲンを全く教えていない。ボーゲンは止まるなどの基本を教えるのに必要だと言いますが、脚力のない子どもは覚える前に楽しくないからスキー止めてしまう子もいる。そもそもスキーは楽しくないと。最初は自分で止まれなくていいと思っています。まず、子どもには滑ることの楽しさを覚えさせる。その上で急斜面に連れて行ってスパルタ教育もしました。もちろん怪我をしないようにヘルメットなどのプロテクトは万全にしますが、ギリギリ限界までサポートはしない。ボーゲンは全く覚えさせなくても、滑ることの楽しさを覚えれば子どもは凄いスピードで滑って行きます。ブレーキは子どもの背中に付けたラインで後ろから僕が果たす。これは大変ですよ! でも、どんどん自由に滑らせて成功体験を積み重ねさせてからエッジを使って止まる方法を教える。そうすると上級のテクニックが自然に身に付く。親の役割は、危険な物に近づけさせないのではなくて、危険をどうコントロールするか、身をもって教えることだと思います。 うちも紙パン履いている小さな頃から山へ連れて登っていたので、そういう原始体験は理屈ではなくて絶対必要だと感じます。でも親に体力気力、あとほんのちょっと知識がないと、なかなかそれができないものかもしれませんね。 うちは長男が2歳半から6歳頃まで、週末は田舎へ移動して畑を耕していました。僕が取り組む医療問題のなかで「へき地医療」があって、都会と比べて医療体制が異なるのですが実体験がないと全然問題の本質が見えてこない。それで長野県の山奥に家を借りて、ある意味で不自由をわざわざ経験しに週末に通っていました。ちょっと発想の転換をすれば、こういう暮らしから得る知識や経験は重要だし、息子の成長や自分の仕事にも大いに参考になる部分があります。さらに、大自然の中での暮らしは、大災害などの時にも知恵になる。万一、東京が住めなくなった場合の移住先を考える意味でも有効です。リスクマネージメントは、それを楽しむようなセンスも大事だと思う。 3.11以降はアウトドアを楽しむというよりも、目の前のリスクをどう対処して楽しみを見出せるか?ですね。スキーが上手な息子さんの成長が楽しみですね。 長男は小5ですが、夏休みの自由研究に「東北道の放射線測定と津波被災地の実態」の二つに取り組みました。僕が被災地へボランティアのため何度も行っているので、そこでの経験を子どもにも写真を見せたりして話すようにしているんです。そうしたら被災地を自分の眼で見てみたいと言い出して…。秋田に親戚がおり夏休みに東北に出かける事にしました。東北道をずっと車で上っていく時にガイガーカウンターでモニタリングしながら適宜数値をメモしていました。将来どうなるかわからないけれど、子どもをやる気にさせるのが大事かな。最も重要なのは子どもを守るというのは単純に安全を確保するだけでなく、危険なことをしっかり理解、認知させて子ども自身に考えさせること。僕も息子の自由研究テーマは、リスクもあって迷いましたが、様々な情報から可能だと判断しました。たぶん彼にとってこの経験は大きな財産になると思う。 ---ありがとうございました! <了>
活動インフォメーション
●伊藤 隼也さん書籍紹介
|
|