ここまでとても意味深いお話しを伺ってまいりましたが、息子さんお二人は今、習い事は何かされていらっしゃいますか? 上の子は剣道、そろばん、将棋、英会話へ通っています。みんな、本人がやりたいと言ったことです。実は、家の中にテレビを置いていません。テレビはあるのですがクローゼットの中にしまったままで、まったく出てきません。以前は出ていたのですが、私も妻も、元々、テレビをほとんど見ないので、子ども番組を子どもに見せるために出ていたようなものでした。しかし、子どもは観たらそのまま釘付けになってしまうし、さらに上の子はテレビをテレビとして扱わず、テレビに馬乗りになったり、を引きずりまわそうとしたり(笑)結局、子どもがテレビを見ているときは、一緒にテレビを見ていなければならないのなら、ヤメてしまおうと、5年くらい前に片付けてしまったのです。親が観ませんから、子どももテレビを見たいとも言わないし、そうしたら、子どもは常に何かをして遊びたがるので、子どもは、いろいろな習い事に興味がわき起こっているようです。また、テレビをつけておけば子どもはそちらに釘付けになるので親としては楽ですけど、その分、親は子どもを、子どもは親を見るようになったと思います。テレビが無いので。 そういう決断はなかなかできそうでできないものですよ。子どもにはこうなってほしい…という思いは何かありますか? うーん、自分で生きていけるようになればそれでいいかな。ひとに決めてもらうのではなく、自分で決める。何になりたいか?何をやりたいか?も親に決めてもらうのではなくて、自分で決めることができればいいと思います。僕は各地で講演をしますが、そこで、子どもの参加者から「どうやって決断をするんですか?」と質問されることが度々あります。それって一見鋭い質問だと思うでしょう?でも、決断の仕方はひとに教えてもらうのではない。自分でするものですよ、決断って。ひとに決断の仕方を聞くのって、そもそも決断じゃないなぁ…と。 その通りですね。決断にマニュアルなんかないわけで。自分で決めない限りいろんな人との出会いもないですものね。 今は、自分で決めずに人に言われたことをそつなくこなして、失敗した時は指示した人のせいと…というのが一般的なのでしょうか?だからこそ自分で決めることはすごく難しい。自分で責任を負うということと、責任を取るということの違いも曖昧に感じます。政治でさえ一年交代のように首相が変わる日本ですから。ただ、私が「自分で決めるようになりなさい」と言っても、やはり決められないものですよね。やれと言ってもやらない…という先述したことと同じ道理です。自分で感じていくしかないと思います。 例えば今の若い子は学校とか職場とか気にいらないとポイッと棄ててしまうあきらめの速さがあって「使い捨て」みたいな感覚があるように思います。こういう現象はどう思われますか? 私たちも同じだったかもしれません。ただ取り巻く環境が変わってきているのでその中においても意味合いが変わりつつある。もしかしたら何かを「辞める」ことで何かに出会うこともある。辞めることが悪いことなのではなく、人に出会えるかどうか。どんどん取り換えることで意味をもつこともある一方で、世の中的に長続きしないからこそ、長く続けることで意味をもつものもあると思う。最近の若い子が長続きしないのではなくて、今の日本がそういう世相になっていること、私たち大人が、すべて子どもたちに影響を与えているのでしょうね。 子どもは大人の鏡ですよね。では最後に8000m級の14座登頂されて、これから先どんな登山をされる予定ですか? 私はこれからもひたすら山を登り続けることしかありませんが、これまでの目標とした8000m14座は、数字がはっきりしていて、多くの方にわかりやすかったですし、世の中へ登山や、8000m峰が14座あるということを伝えるために有効でした。そのため、今後、私が続けて行く登山は、14座よりは、分かりにくくなると思います。しかし、いまから60年前エベレストが初登頂された以前は、人々は、まずエベレストを探すことから始めていたはずで、ひらすら、14座や8000mでもない山々を登り続けてきたのです。今はインターネットや衛星写真で地形も見られますし、地図もあるし、ありとあらゆる所に人が行けます。でも、当時は何もなく、何もわからない状態で人が未開の地へ入っていった。そういう登山本来の姿を今の時代に出来ないかと思わせるのが、自分自身がまだ行ったことのない山に行きたいと掻き立てられることにつながっていると思うのです。地球上には、無数に山があり、ひっくり返してみれば、私は、その内のたった14を登ったに過ぎません。まだまだ、たくさんの私にとっての未開の地があるはずです。それがどんな所なのか。未知の世界へ立ち入ってみたいのです。それが、山登りの原点だと思います。 ---ありがとうございました! <了> ●竹内 洋岳さん 関連書籍情報
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