松森果林(まつもり かりん)さん 1975年、東京都生まれ。ユニバーサルデザインコンサルタント。小学4年で右耳を失聴。中学から高校にかけて左耳の聴力も失う。筑波技術短期大学デザイン学科卒業。在学中にTDLのバリアフリー研究をしたことがきっかけで「ユニバーサルデザイン」が人生のテーマとなる。(株)オリエンタルランドなどを経て独立。NHK・Eテレ「ワンポイント手話」出演。「ろうを生きる 難聴を生きる」司会。「井戸端手話の会」主宰。著書に『星の音が聴こえますか』(筑摩書房)、『誰でも手話リンガル』(明治書院)、共著に『”音”を見たことありますか?』『ゆうことカリンのバリアフリー・コミュニケーション』(以上、小学館)などがある。» 松森果林さん 公式ブログはこちら» 松森果林さん facebookはこちら» CM字幕応援団 facebookはこちら 果林さんとはこれまで刊行された2冊の本について別企画で取材をさせて頂いたことがありました。今度の新刊「音のない世界と音のある世界をつなぐ」では、これまで執筆されてきた本とどんな点が違いますか? ひとつはジュニア向けであることと、もう一つは主にユニバーサルデザインについてお伝えしていることです。小学校ではユニバーサルデザインについて学ぶ授業がありますが、車椅子を使う人、目の見えない人…というように外見で障害をもつことがわかりやすい人を取り上げることが多いようです。聞こえない人は、一見どこからもわかりません。普段聞こえる人が、耳の聞こえない人と話そうとすると「話しても聞こえないから大変だな」「筆談をすると時間が掛かって疲れそう」「手話がわからないと困る」と思うことでしょう。でも逆の立場で考えると「手話ができない人と話すのは大変だな」「筆談すると時間がかかりそうだな」と思っているわけです。つまり、自分が考えていることは、相手も同じ考えとは限りません。まず相手の立場で考えてみると、新しい世界が広がり、新しい発見や、新しい気づきがあります。普段から、「自分が同じ立場だったら…」と考える習慣をつけるのは、とても大切なことです。 その通りですね。著書には果林さんが11歳の時に聴こえにくくなって、でもそれを隠して聴こえるふりをしていた…という胸が痛くなる実体験も綴られています。聴こえないことで苦しまれていた時代を、今はどんなふうに捉えられていますか? 実際は本になっている原稿の2倍量書きました。聴こえないことが恥ずかしいこと、聴こえないことは悪いこと…と思いこんでいて、当時は聴こえるふりをして周囲に合わせるのに精一杯でした。一人で抱え込まずにサポートを求めることが中学生くらいの頃はできませんでした。でも、今ならわかります。一歩踏み出せばたくさんの人に伝えられるということ。八方塞がりな毎日の扉を開く鍵を握っているのは、あなた自身なのだと伝えたいです。 その言葉に、とても共感します。聴こえない人だけでなく、聴こえる人でも状況を変えたいなら自分が変わるべきですね。読み進んでいくと随所にそうした感情を揺さぶられるエピソードがあります。 でも単なる自叙伝ではなく、あくまでもユニバーサルデザインをテーマにすることを基本にしたので、気持ちがわぁーっとこもりそうになると、編集の方がそこからぶれないように軌道修正をしてくださりながら、初めて「書けない」経験もしました。伝えることの責任の重さを大きく痛感したからです。 ユニバーサルデザインコンサルタントというお仕事をされるきっかけになったお話も興味深く読ませて頂きました。 本の中で繰り返し伝えているのは「相手の立場になって考える」こと。誰もが暮らしやすい社会は、お互いが相手を思いやることから始まります。お互いを理解し、つながりをつくるために、私は講演活動にも力を入れています。音のある世界と音のない世界をつないでいくことで、やがてそこから多くの化学反応が生まれる予感がします。
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