美大を卒業されて落語家として弟子入りされたという経歴もユニークですが、落語家になるためにどんな努力が必要でしたか? 落語家になるまでの苦労はありません。辛かったことがあったとしても、それは落語家になるための通るべき道。落語ができて、人を笑わせられることができれば落語家になれると思ったら大間違いで、師匠こん平からは落語家である前に社会の一員としての立ち居振る舞いや礼儀作法、人との付き合い方など生き方を教わりました。弟子入りして落語のことは一切教えてくれませんでしたが、師匠ならこれをどう考えるのだろう?と一番近くで見させてもらえる人生勉強の場でした。 落語は技術ではなくて、人としての厚みが出る芸なのですね。 人にどうしたら愛されるか?という笑顔にさせる本質を考え学ぶこと…それが一番大切かもしれません。極端な話、暗記ができれば落語はできますが、暗記力が優れている人が落語家になれるか?というと違います。柳家小さん師匠は『芸は人なり』とおっしゃっていました。『人が全部、芸に出る。テクニックではなく人間を磨きなさい』と。磨かれた人間から発せられた言葉が一番輝いていて、一番人を感動させる力があると。テクニックは見破られますが、磨いてきた人間力は真似できないもの。それを常に肝に銘じています。 落語だけでなく音楽や芸術も同じことが言えるかもしれませんね。ところで『笑点』は事前にすり合わせなしのアドリブで、よくすぐに答えられるなぁ!と感心するのですが。 『笑点』は響き合いです。それぞれを理解して、尊敬して、信じ合っているからこその一体感があります。僕が子どもの頃からテレビで観ていた番組ですし、師匠の皆さんは怖くて厳しいのだろう…と思っていましたが真逆でした。「どんどんあがってこい」と言ってくださるのは突き抜けている存在だからこそ。こういう人に自分もなりたいし、こういう所にいたいと思わせてもらえる師匠に囲まれています。落語に触れる機会が昔に比べてなくなっている分、子どもたちに落語を少しでも知ってもらえる場として『笑点』は大きな役割を担っています。もちろん大喜利は本格的な落語ではありませんが、『落語家』という人を笑わせる職業があるという、広告塔になっています。 お師匠さん方は落語という芸を通して、人としての魅力を放っているのですね。では最後に小さな子を育てる親へ向けて、たい平さんからメッセージをお願いします。 落語はお客さん(受け手側)の想像力に頼るもの。今はいろんな情報に囲まれているがゆえ、それを受けてわかったつもりになりがちです。自分ではない誰かに思いを馳せて想像力を膨らませると、いじめも環境汚染も戦争もなくなり平和が生まれます。想像力を豊かにするきっかけに、落語がなれるといいなと思っています。想像力というエンジンを回すにはいろんな経験や感情を知ることも必要です。経験というエネルギーを蓄えるのは、子どもの頃しかできません。そのきっかけを与えるのは親です。 ---ありがとうございました! <了> 林家 たい平さん 活動情報
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