ご自分が育ってきた時間を全部肯定できるのは本当に素晴らしいです。やはり子連れ旅行の経験は大きかったのでは? 生後7カ月頃から小学生いっぱいぐらいが親子で旅できる限定期間だと思っていて、自分はそれを満喫できたなあと思います。限定期間は案外短い。中学以降になると友達と出かけるようになって、子供自身の社会のほうが広がっていきますもんね。娘は3歳に行ったインド旅行が最初の記憶にあるようです。インドなんて子連れで行く国ではないという思いこみがあったので、石橋を叩き割る勢いで調べて準備したんですが、旅行中は私が娘を一度も抱っこしなかったくらい、現地の人がよくしてくれて極楽でした。アジアは子どもに対して寛容で、旅も楽。一方でヨーロッパも楽だったのは、はなっから子どもと大人の世界を分けているから。日本は、その境界が曖昧だからしんどいのかも。 限定期間に12、3カ国も親子で旅されてきたようですが、どこが一番印象的でしたか? 娘が5歳の時のスイスですね。トラベルデザイナーのおそどまさこさんが親子でスイスに行ったエッセイを読んで、カッコいい!と憧れて、まず娘をビデオや本で「アルプスの少女ハイジというのがいてな…」と洗脳するところから始めました(笑)。「ハイジのように緑のじゅうたんを駆け回りたいかい?」「駆け回りたい!」「ハイジのようにチーズを食べたいかい?」「食べたい!」…と言わせたらこっちのもの、旅先で不平不満を言えなくなりますからね。政府が主催するファームステイにも参加。荷物を持つなど5歳でも役割を与えていたこともあってか、よく覚えているようです。 親子で旅して得られるものは大きいと思います。森さんはなぜエネルギッシュに親子旅をされてきたのですか? 子連れの旅に対する反応は2種類に分かれます。「もう子どもが生まれたから旅行行けないわぁ」とあきらめている人と、「子連れ旅行なんか皆行っているじゃん」と気軽に考えすぎている人。私はどちらに対しても疑問があって、前者も後者も本当にそうなのか?をまず自分で検証してみよう!両者の間を埋めてみよう!…と思ったことが始まりです。 では、世界を親子で旅されてきた森さんから「子育てに必要な力」について、読者の皆様へメッセージをお願いします。 以前、兄弟で鍛冶屋職人をしているお爺さんを仕事で取材したことがありました。小学校も満足に通えぬまま丁稚奉公に出されて以来ずっとカンコンカンコン毎日刃物を作ってきた彼らが、すごく幸せそうに「他に職業を選択?考えたこともない」「休むと具合が悪くなるから休まない」と笑って答えられたのが印象的でした。人は時代の中で、そうせざるを得ない状況というものに直面することもある。小さな頃から「あなたが好きなことを選択していい」と親が言わなくても、誰かの思惑では変えようのない、その子が持つ力や状況の中で人生を選択していくんだと思います。英語教育はもちろん大切ですが、まずは日本語を話す、書く、読む、が基本。物の考え方を作り、アイデンティティーを構築するのは日本語体験だと、旅を通して痛感しているんです。日本語のボキャブラリーを増やすと、心の表現が増え、自分の考えや、自分がどんな人間かもわかってくると思うんですよね。 ---ありがとうございました! <了> 森 優子 活動情報
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