■2月に刊行された「カラスのジョンソン」は、今回どうしてカラスをテーマにされたんですか? 僕は、文学を追求したいと思ったことはないんです。書きたいのは「フランダースの犬」「ごんぎつね」「オズの魔法使い」とか。人が死ぬより、話すことのできない犬が死ぬほうが悲しい。小さな頃から犬、ネコ、亀、鳥、魚、おたまじゃくし、いもり、やもりまであらゆる生き物を飼ってきました。人間以外に対して情が深い。ある時、カラスを駆除する場面に出遭って、ここまでしなくちゃならないものなかな、とふと思った。これが都市なのかと。こういうことが当たり前になってしまうと、その空気の中で育った子どもたちは、平気で命をあやめるようなことをするようになるのでは……タチの悪いことになりはしないかと。僕は、カラスを殺すなと言っているわけじゃなくて、「悲しみを感じなくなった街」について書きたかったと同時に、「悲しみを感じる人間」について書きたかった。「悲しみを感じなくなった国」に、「美しい国」なんて言ってほしくないですから。
■本当にそうですね。この小説では、屈折した人間のはかなさとか、カラスが感じているであろう悲哀がすごくリアルに交錯して、読み進まずにはいられない感じでした。 貧者を救うのは貧者。悲しみを救えるのは、悲しみを知っている人。悲しみの経験が少ない人は、悲しみが感じられない。小説の中では、色々メッセージを込めている。イスラムとアメリカの関係とかね。僕が描くのは、いつも社会の底辺で生きる人間とか、弱い者の立場。強いもの、支配する側のことは、体験がないので書けません。でも、ファンタジーが人生テーマなので、そういう作品に昇華していきたい。3月に出た「オーロラマシーンに乗って」を読んでみてください。
■小さな頃はどんな本を読んでいましたか? う~ん、本はあまり読まなかった。「シートン動物記」とか好きでしたけれど、文学作品は全然。高校から大学時代にかけては、ガンジーに傾倒していました。「なんとなくクリスタル」の田中康夫が流行っていた頃で、全然時代と合っていませんでした(笑)。
■田中康夫に対してガンジーですか!う~ん、おもしろい。今年はたくさん書籍も出されるようなので楽しみですが、今後の活動を教えてください。 ちょっと人前に出ることを自粛していたのですが、今年は動きます。7月には角川書店から恋愛小説が出ます。4月から始まるNHKの日曜深夜番組でコメンテーターみたいなのにも出演します。もう一度、ライブもやってみようかと。あと、「星の王子様」みたいな絵本をずっと書きたいと思っていたので、今年やってみるつもりです。
■では、最後に習い事をする親子へ何かメッセージを。 資格を得る、いい学校へ入る、とか目的があるのでしょうが、そうしたことと違う次元で、自分の好きなことや興味のあることで、言葉の数を増やしていくだけで、人生を後押ししてくれる風が吹き出す。例えば、並木が好きだとしますね。東京では、どんな並木があって、世界にはどんな並木があるかを知りたいと思うでしょう。これって不思議な力。何の取り得もない子でも、きっと変わってくるはず。言葉は葉っぱのようなもので、それが増えていくと森になる。森ができると、いろいろな命が宿る。僕は子どもの頃よりも、大人になった今のほうが楽しむために勉強しています。あらゆることは、人生を楽しむためにやるものですから。
----ありがとうございました。哲也さんのユニークさはご存知の方も多いと思いますが、素の哲也さんの発する言葉は、文字で読む以上に心に響くフレーズがたくさんあって、まるで朗読を聞いているような心地よさでした。いつまでも大きな少年のような哲也さん。これからの活動、とっても楽しみにしています。
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<了>
取材・文/マザール あべみちこ |
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