齋藤 紘良(さいとう こうりょう) 社会福祉法人東香会 理事長/音楽家/簗田寺 副住職 お久しぶりです。私、13年前に「ものがたりレシピ」という本のプロジェクトで大変お世話になりました。今回ひょんなきっかけで紘良先生の新刊を知って、さっそく拝読して、共感する点が多々ありました。新刊に託された想いをうかがえますか? 子育てのHow to本にしたらどうかという企画が最初にありましたが、それだと他に多くの専門家もいらっしゃいますし、How toにすると「しぜんの国」が答えになってしまう。しぜんの国保育園に入園すればハッピーというようなことでない。理想郷を語るようにならないよう心がけました。発信が園からですと、どうしても「ここが素晴らしい園」だとする内容に受け取られてしまうのではないか、と。なので、一つの保育園から話題を提供する本になったらいいんじゃないかな、と思いました。保育所という枠を単に、子どもを預ける場ではなく、保育園という場所があることによって地域が発展していったり、社会のなかでより豊かなものが出せるような空間にしたい。保育園と社会をつなぐ、橋渡し的な本にしたいと思いました。 うちの息子も自然に恵まれた保育園で6年間育ってきました。しぜんの国は各地にありますが、それぞれ何人くらいの園児を保育されているのでしょう?他の保育園にとっても、真似したくなる、憧れの園ではないでしょうか? おおよそですが、町田が162名、成瀬が100名、相模原が180名、渋谷が114名、世田谷上町が100名。学童が70名ほど。 町田の旧園舎を今の園舎に建て替える際、地域に開かれた保育園にするという想いを込めた園舎にしたあたりから、飛躍的に注目されるようになったように思います。本に書いていることはパーソナルな思想や子どもの姿から湧き出したもの。“しぜんの国メソッド”を解き明かしたような本ではないので、それを求めている人にとっては、肩透かしの本かもしれません。でも読んだ人が、「え?そうなの?」と疑問に思ってもらえるのもアリかと。 「すべて、こども中心。」という本のタイトルも素直に受けとめられます。でも思春期になると、なんでこうなるの?みたいなこともあって、卒園生の親が相談しにきませんか?また、そうした相談にはどう対処されているのでしょう? ありますね。月並みですがケースバイケースで。これは他の機関と連携した方がいいなという時は、そういう形を取ります。商売っ気のない仕事ですので、その人にとって、この園がどういう意味をもっているのか、常に考えながら接して、僕らでは太刀打ちできない問題がある時は引き継ぐこともある。少しの言葉がけで、気が休まる親御さんもいます。なので、町田の新園舎にはサロンを作りました。保育園は通常、門が閉まってセキュリティーが掛けられていますが、しぜんの国は門はフリーで誰でも入ってこられます。一歩、中に入れるという「開かれた場所」にしたいな、と。子どもたちのいる玄関にはセキュリティーを掛けています。 環境から考えられていますね。競争率が激しそうですが、保育園の待機人員問題はどのようにお考えですか?一方で保育士不足も言われますが、この職業を一言で表現すると? 保育所に『入れた・入れなかった』だけで、死ぬだの生きるだのコメントが出ること自体、選択肢のない世間を渡り歩かないとならない辛さがあると思います。一時保育もありますが、選択肢がないから保育園に『入れた・入れない』だけになってしまう。保育所が足りないのは日本だけでなく、北欧も都市部では10年前と比べて待機児童問題があります。選択肢を増やすアイデアを引き続き増やしていかないといけませんね。仕事の仕方もテレワークという選択肢が増えて、どのようにこれからの働きかたが変わるか?というように。 保育士は、一言でいえば“ちゃんと生きていく人”ですかね。いろんな個性があっていいけど、「生きる」ということに向き合っている。そういうエネルギーを持っていてほしいですね。 |
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