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政治学者 中島岳志さん「料理と利他」
何事も受け取れるスペースをもつこと「料理と利他」

先生ご自身のことを少し紐解いてお聞かせいただきます。小学生の頃はどんなお子さんでしたか?

大阪で育ちましたが「しょうもないことしい」と言われていました。勉強ができる子でもなく、クラスの人気者でもなく、しょうもないことをして担任の先生や同級生の女子に嫌がられるという(笑)。机の中を片付けられなくて、親に渡すべきプリントとかぐちゃぐちゃに詰め込んでいて、掃除の時間に「中島君の机が重くて運べませ~ん」と女子にチクられ。机の中身を出すとプリント類の他に給食の残パンが出てきたり。ザリガニの死骸が出てきた時は、めちゃくちゃに怒られました。

男子あるあるですね(笑)。その時代は何がお得意でしたか?

唯一好きなのは歴史でした。思いがけないことですが、小学2年生で大阪から家族で静岡の祖母の家に遊びに行った時、登呂遺跡に連れて行ってくれました。その時、登呂遺跡の資料館にあった火起こし器にハマっちゃったんです。あの、火を起こすためにくるくる回す道具。実験コーナーでそれを見て触って、どうしてもこれがほしいと言ったらしく。土産物屋でレプリカを買ってもらって家でずっと眺めていました。

今振り返って言語化すると、古代の人の心に関心があった。二千年前の人は何を考えていたんだろう?と理屈ではなく手触りでつながりを感じ取ろうとしていた。その後、古墳が好きになって、暗い石室に入ったり。大阪には石室が放置されたまま残っている古墳の跡地がたくさんあって、そこに行くのが好きでした。歴史の場所に行くのが好きになり、親に飛鳥村に行きたいと言ったり、どちらかというと古代に関心がありました。

やはりそうした素養をお持ちで、今のベースがそこにありますね。

小学4,5年生の時、一万円札が福沢諭吉に変わりました。彼は中津藩という大分県出身の方で、生まれたのは大阪。中之島にある蔵屋敷で生まれたんです。それをニュースで聞いて、聖徳太子から近所のおじさんが一万円札の人になるような気持ちで、どこで生まれたのか調べたくなった。図書室で伝記を読み、場所を突き止めてチャリで行って。それを壁新聞に書いたら褒められました。

机の中にザリガニ突っこむ子ですからほとんど褒められることはなかったのですが、この時は褒められた。算数も国語も全然できないけれど、歴史は自分のやれるところだという思いがあった。それで中学に行ってからまた先生に怒られて「おまえは社会科部に入れ」と言われ、部員のいない部でいきなり部長となり仲間を集め、いろんな研究発表をするようになりました。

親もまさか遺跡好きにするために登呂遺跡へ連れていったわけではなく観光名所に行っただけでしたが、思いがけず人は何かに関心をもつものなんですね。自分の中にスペースがあることは最終的に重要だと思います。

スペースをもつ大切さ。それは子どもだけでなく大人もそうですね。

利他をうみだす受け手問題ですが、受け取るためには自分の中に空きスペースが必要です。誰かが言っていることに、自分の興味がないことと撥ねてしまうと新しい世界は始まらない。あ、それ、おもしろいね!と思えるスペースがあると、思いがけない偶然がそこから生まれていく。偶然を生み出すには自分の中にスペースを生まないといけない。これ、おもしろいね!と言えるスペースです。

僕はNHKのど自慢の伴奏者が、典型的に利他のいい例だと思っています。相手をコントロールせず、その人のポテンシャルが花開くように添うことが、利他の一番理想的な姿。添うには自分の中にスペースがないとできない。スペースがないとコントロールしようとする。たとえば、学生が僕にかけ離れたことを言ってくることがあります。悪い指導教官は自分の学説のほうに軌道修正しようとします。けれど、わからないなりに受け容れるスペースが自分の中にあると、その学生のポテンシャルが引き出されるし、それによって教えられることも多い。自分と違う角度から話が来るわけですから。

だから与えることではなく、自分の中にスペースを創ることがまず実践としてはいいんじゃないでしょうか。親も学校の先生も余裕がないと型にハメて、ややこしいことを言うとそれ時間掛かるから…と可能性を奪ってしまう。うまく言えずとも関心を示していることに反応できる自分のスペースが必要なんでしょうね。

のど自慢の伴奏者のお話はツボでした!ところで先生は子どもの頃どんな習い事を?興味や関心を早い時期にハッキリされていましたけれど。

僕は落ち着きがなくて座っていられない子で、最初はお習字に。一枚書くと暴れるのでこれはいかんということで、母にピアノも通わされました。もうちょっと座るだろうと。これも一分と持たず(笑)。それから囲碁のプロ棋士に弟子入りさせられ、小学2年生から高校までやっていました。これは強くなってしまってプロになるの?どうするの?と聞かれたこともありましたが、囲碁の道には進みませんでした。アマチュアの六段という最高段位までいきました。親にやらされている感じで当時は全然好きじゃなかった習字もピアノも小学生時代は通いましたが、強制的にやらされたものは身につかないんだな、と身をもって経験しました。

ありがたかったのは、歴史好きの私が京都や奈良に行きたいというと、親はとにかく連れて行ってくれた。飛鳥村にいって高松塚古墳と石舞台古墳に行きたいと言えば、いいよ~と。遊園地とかに全然行きたがらないので変わった子やなぁ~って(笑)。

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