先生は政治学者として、11月の衆院選結果をどのようにご覧になりましたか? 投票率が56%くらいで結果的に伸びなかった。コロナになって政治へのネグレクトが起きていると思う。先日の第5波の時も、政府が言うことを国民は聞かなくなった。政治に対する信頼がまったくないので、あなた方の言うことは聞けないと。与党支持とか野党支持ではなく政治全体に対する不信がすごく大きい。こうなってしまうと自己責任が余計回転して、自分の身は自分で守るしかない。商売も何とか自分でやっていくしかない。政治に対する信頼が損なわれるほど、自己責任社会が蔓延ってしまう悪循環になっている。ここをなんとかしないといけない。 たとえばニュージーランドは政治家と国民の信頼関係がしっかりある。アーダーンという私より少し若い女性の首相で、子育てをしながら国を率いている素晴らしい政治家です。率直に、「私もコロナが怖い」と言って、コロナで家族が感染するのは怖いけれど、ここを乗り切るために何日間かロックダウンをします。一緒にやりましょう、と呼びかける。そうすると首相に対して信頼は厚くなる。感染者数もかなり抑え込みができています。民主主義のいい形で政治に信頼がある。 一方で日本人はまったく信頼がない。証拠を改ざんする、文書を黒塗りにする。野党にしても大丈夫か?と。国民が政治をあきらめてしまっている。野党が与党が岸田が…という前に、政治に対する信頼を回復しないとどうにもならない、というのが僕の考えです。 信頼を取り戻すために私たちはどうしていけばいいんでしょうか? 長い道のりです。政治家に頼ってもダメなので投票率を上げるために投票へ行こうという呼びかけだけではうまくいかない。普段から政治にコミットすることがすごく重要です。国政ではなかなか難しくても、ボトムアップで地域の政治にコミットすること。 難しいことではなくて、たとえば東京では今空き家問題がクローズアップされています。防犯上、厄介者扱いされますが、ある種みんなで使える公共スペースとしての可能性がある。持ち主も実家のご両親が亡くなってしまったから空き家になっていることが大半です。地域の側としたら子育てサークルをやりたい人や、習い事としてお箏をやりたいとか、そうした場所と人をつないでうまく整理するのが政治です。こういうコミットの仕方がいっぱいあって、選挙以外の時に僕たちが小さな政治に関わるルートが無数にある社会が、政治が機能している社会だと思います。 そういう回路をいっぱい作らないといけない。でも回路を作っただけではダメで、僕たちに余白をつくらないといけない。労働時間が長すぎて地域の政治にコミットする時間などない、と言う人も多い。そのためには格差社会を失くさないといけない。非正規でいくつもの仕事を兼任しながらでないと生活できない人は、プラス政治に関われって何だよと思うわけですよね。だから労働環境を良くしないといけないし、働き方改革をもっとしなくてはいけないし、なにせ女性に対する負担が大きすぎる。労働も介護も子育てもって、そのうえ地域の政治に関わることなんてできないよというのが本音だと思います。そういうことを整えることによって、政治を起動させる。即効性は考えてはいけないのです。 地域の政治にコミットすることが大切なポイントであり、参加できるように細かいことを整えつつ、長い目で関わるというのもよくわかりました。今年一年の総括として、先生から子育てする親世代へ何かメッセージをお願いできますか。 自戒の念を含めてですが、子どもの潜在的な可能性というものを引き出すということが重要だと思います。これしちゃいけない、あれはダメ、こうしなさいという親の願望を子どもに付託するのではなく、その子が関心をもつことを伸ばしてあげられるような、そういう家庭や教育が大切だと思います。それに対応するには自分に余白がないとダメですね。時間的なスペースもそうですし、それにちゃんと向き合えるような心の余裕も。そういう余白を自分の生活に作るようにするのが、親にとってはとても重要と感じたりします。 では最後に、未来の子どもたちに伝えたいメッセージはいかがでしょう。 利他は未来からやって来るもの。今、自分がやっていることがすぐ報われると近視眼的に考えないほうがいい。毎日を丁寧に過ごしていれば、それが思いがけず何かを花開かせることになる。20,30年後に「あの時のが、これにつながっていたのか」と気づいた瞬間、私たちが丁寧に生きてきたことが利他として浮上させられる。未来に何かやって来るものを信じて、私たちは丁寧に余白を作って生きていくことが大切だと思います。 未来からの何かを待ちわびてしまうと利己になってしまうので(笑)、過剰な計らいを持たず、丁寧に、余白をもって生きていくこと。のど自慢の伴奏者のように、出合い頭のものにうまく添いながら、ポテンシャルを引き出していくと何かが現れる構造を信じる。利益になるかわからないけれど、そうすることによって何かが生まれるんじゃないでしょうか。 ---ありがとうございました! 2021年11月リモートによる取材・文/マザール あべみちこ 中島 岳志 書籍紹介
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