小林政広さんは2022年8月20日にご病気のためご逝去されました。 小林 政広(こばやし まさひろ)さん
1954年、東京本郷生まれ。 『春との旅』の試写を拝見して、とても心に沁みました。家族とか人とのつながりって何だろうと思うと同時に、生きている限り、人と関係しながら喜びも悲しみも抱えていかないとならない。でもどんな立場であっても希望はもっていたい。勝手にそんな風に受けとめてしまいましたが、涙が止まりませんでした。作品に流れている温かさ、美しさ、正直さは監督自身の魂かもしれません。まず最初にお尋ねしますが、この作品をつくるきっかけになったこととは? 『歩く、人』という映画を9年前に作りまして、もう一度家族のドラマを作ろう、と思ったのが最初のきっかけです。それでシナリオを書き出して。ちょうど2001年9月11日の同時多発テロから3ヵ月後の年末で、時代的に世の中が騒がしくなってきた頃に1週間で一気に書き上げました。 足の悪い老漁師の忠男、小学校が廃校になってしまい給食調理の仕事を失職した孫娘の春との二人旅。この登場人物の設定は最初からあったもので? そうです。あれは北海道増毛町が舞台で、そこでこれまで『海賊版=BOOTLEG FILM』『殺し』『歩く、人』という3本映画を撮ってきました。そうするとその土地を取材をするように町のことが段々わかってきた。『歩く、人』は造り酒屋の親父という設定でしたが、もう一つそこに住んでいる人の心情に踏み込めていないような気がしていて。 場面の細部に見られるリアリティー、主役の仲代達矢さんをはじめ脇を固める俳優の演技力も素晴らしいけれど、扱っているテーマと脚本の力はすごいものだと感じました。 この脚本は役者さんが気に入ってくださったり、いろいろな方に評価をいただきました。でも、僕の中ではシナリオでドラマが完結していた。これを映画にしても新たに何かを加えることはできないんじゃないかと思っていました。つまり、ホン(※)のイメージが出来上がりすぎていて、それをもっと超えるような画が撮れなかったら監督をする意味がない。自分が書いた脚本ですから映像イメージは鮮明にある。でも、それを超えようとすることで、自分のもっているイメージが壊されるような気がしていた。 |
|