被災地の子どもたちにこれから必要なことは、どんなことだと思われますか? 今大変なことが起きているけれど、これから大人たちも協力していい方向へ進んでいこうとしているから、先が今よりもっと悪くなるのではなく、希望をもって生きていこう。そんな「未来に対する信頼感」を与えてあげたい。これから大変なことと同じくらい楽しいことも待っているから心配しないで、大丈夫……と未来を信じられる力を与えること。そして大人がそういうことを約束してあげることが大事だと思います。 そうですね。そのために学校での通常授業だけでなく音楽やスポーツなど楽しい!うれしい!と感動できるような体験があるといいですね。 今は学校で勉強するどころではないかもしれない。でも学校にくれば友達に会えるとか、この教科書は今学期で勉強が終わるとか、来年になったら学年が上がって教室が変わるとか……そういう未来がある程度読めて、自分にも先に続く未来があると思えることこそ大切。「明日はどうなるかわからない」ではなく、「明日はこれを勉強しよう、あの子と会おう」とハッキリ目に見えて希望がある場が、学校なのだと感じています。被災地では全校が一緒に遊ぶようにしたり、行事を多くして皆で一緒に体験することを意識したり、そういう取り組みが今後は増えていくと思います。大人のケアも大事ですが、子ども同士のつながりで励まされたり、力になったりすることがあるのでは。 本来の学校のよさを取り戻すために、子どもたちと共につくりあげていってほしいです。これから復興への道のりは長い長い時間が掛かると思います。香山先生はこれから私たちがどのように生きてゆくべきだとお考えですか? 被災した宮城県へ2度訪問しました。現地はテレビでも映像が流れている通り酷い状態です。何もかもなくなっている。復興といっても元通りになることではないし、世界にモノいう経済大国になることでもない。日本は震災前から「無縁社会」が問題視されていて、人との関係性の薄さを指摘されていました。高齢者の孤独死や子どもの虐待など、この問題の延長にあります。物質的、経済的に豊かでなくても皆が心通いあえるような生き方をしたいですね。この震災を機に、大人から「日本はもう一度あたたかい心を取り戻してやり直していける。支えあう社会を再構築していく」と自信をもって子どもへ伝えてほしい。 大人から希望をもつ、子どもたちへ希望を与える。そういう姿勢が大事なんですね。では最後に、その希望を失わないために何かアドバイスをお願いします。 被災された方も、被災していなくても未曾有の災害をテレビやネットでおびただしい情報に触れて心にダメージを負っている人は多いです。ショックが何らかのトラウマとなってしまう。深刻な後遺症を残さないようにするために、初期の段階でまず休息すること。カウンセリングよりも、まずは安全な場所で体をゆっくりさせて十分に睡眠と食事を摂る。「何も考えずに休む」という手当てがされれば、激烈な体験が尾を引いて長く心の重荷になることも少なくなる。「復興だ!」「新たな出発だ!」と気負い過ぎず、ゆっくりとそれぞれが再生への道のりを歩みだすのがよいような気がします。仕事も残業せずに早めに切り上げる。休みは近所で散歩して森林浴。そんなリハビリ期間が、日本中の人にとって希望をもつために必要なのかもしれません。 ---ありがとうございました! <了>
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